俳優の舘ひろしさんが禁煙を始めたらしい。製薬会社のテレビCMで「禁煙で必要なこ
とは何だと思いますか?」という医者の問いかけに、舘さんが自信なさそうに「気合です
か?」と答える。「まず、その考えから変えていきましょう」とお医者さん。渋い二枚
目俳優″がビクビクとした表情なのがコミカルで、楽しいCMだ。
舘さんのような煙草が似合う俳優ですら禁煙を余儀なくされる時代、どこに行っても、
煙草が吸いにくい環境に変化している。
仕事柄、出張が多いのだが、飛行機に始まり、新幹線も禁煙列車にシフト。長距離の移
動の末に辿り着いた空港で一息入れたくとも喫煙場所を探すのに一苦労する日々だ。しか
も、我が社のある神奈川県は、今年度から「受動喫煙防止条例」が施行され、愛煙家の居
場所がなくなりつつある。
その上、安息の場であるはずの我が家とて、私の書斎以外は、家人による「禁煙条例」
が施行され、自由気ままに煙草が吸える環境にはない。
世の中の流れに飲まれたとは思っていないが、健康のためにと主張されると逃げ場はな
い。私も禁煙を始めた。
そんな訳で、冒頭の舘さんの「気合ですか?」の台詞が痛いほど身に沁みる日々を過ご
しているわけだ。
先日、渋谷区の公衆トイレの命名権を取得してから一年を経て、その経過報告のため
に、東京の渋谷区役所を訪問した。その際、命名した公衆トイレ「トイレ診断士の厠堂」
に立ち寄ったところ、ちょうど日常清掃を担当している清掃員の方と会うことができた。
一年前は笑顔すらなく、暗い表情で便器に向かっていた清掃員の方が、見違えるほど明
るい表情で最近の厠堂の様子を話してくれた。
一年前まで臭くて怖くて汚い公衆トイレだったのが、我々アメニティの「気合」と「技
術」によって、見違える空間へと変貌した。あの日から、この公衆トイレの維持管理は、
後処理型から予防型メンテナンスへと「習慣」が変わったということだ。
一年を経ても公衆トイレの厠堂は快適な環境で維持され、私たちのサービスの確かさを
証明することができた。利用者のマナーの啓発にも繋がり、キレイに使用してくれる上
に、煙草の吸殻のポイ捨ても激減した。
よもや、厠堂の吸殻の量が減ったのは、舘さんの所以ではあるまい。
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